聖書に聞く

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事例25  イスカリオテ・ユダ(1)
「それで、彼はすぐにイエスに近づき、『先生。お元気で』と言って、口づけした。イエスは彼に、『友よ。何のために来たのですか』と言われた。そのとき、群衆が来て、イエスに手をかけて捕らえた。」(マタイ26:47-50)


 これは、ゲッセマネの園でイエスさまが、大祭司や長老たちに捕らえられたときの一コマです。「彼」とあるのは、12弟子のひとりに選ばれながらイエスさまを裏切って、大祭司たちに売り渡したイスカリオテのユダです。彼がなぜイエスさまを裏切ったのか。その真相について四人の福音書記者はだれも触れていません。ですから、古来いろいろと想像されて来ました。今回紹介するイスカリオテのユダについての記述は、「ユダの福音書」として最近話題になっている古い写本(2世紀ころ成立したと言われるチャコス写本)です。この著者は不明ですが、私たちが正典とする四福音書の内容とはほど遠いもので、当時キリスト教グノーシス主義と呼ばれていたキリスト教異端の文書です。ユダの裏切りを擁護したものとご理解下さい。このイスカリオテ・ユダを3回に渡って取り上げましょう。

 今回は「ユダの福音書」を少しだけを紹介します。
 「ある日、弟子たちは……パンに感謝の祈りを唱える儀式を行っていた。これを見たイエスは、彼らのことを笑った。なぜ笑うのか、と問い詰める弟子たちに対してイエスは、弟子たちには自分のことが理解できないだろうと告げる。これを聞いた弟子たちは怒り、心の中でイエスを罵り始めた。これを見たイエスは、『なぜ怒りに変わったのか。あなたがたの内にいる完全なる人を取り出して、私の眼前に立たせなさい』と話す。弟子たちは口を揃え、自分たちにはそれだけの勇気があると主張したが、実際にイエスの前に立つことができたのは、イスカリオテのユダだけであった。……ユダはイエスに、『あなたは不死の王国バルベーローからやって来ました。私にはあなたを遣わした方の名前を口に出すだけの価値がありません』と話す。イエスは、(彼に)十二使徒から離れるように促し、そうすれば王国の秘密を授けようと約束する。……次にユダは、十二使徒たちに石を投げられて虐げられるという、見た幻の内容についてイエスに問いただす。イエスはユダを《十三番目の霊》と呼び、……『死を免れない生まれの者は、お前が(幻で)見たあの家の中に入るに値しない。あそこは聖なる人々のために用意された場所なのだから。聖なる者がそこに留まり、永遠の国に聖なる天使たちと共にいるだろう』と話す。……イエスは、彼が聖なる種族のもとに引き上げられるであろうこと、しかしそれを見た他の種族たちは彼を非難の的にするであろうことを予告し、『いまだかつて何びとも目にしたことのない秘密をお前に教えよう』と、創世の物語を語り始める。

 世界の始源に存在したのは、《目には見えない霊》(至高神)である。……至高神はあるとき、大いなる天使、照り輝く神である《アウトゲネース》(自ら生まれた者)を出現させる。そしてアウトゲネースは、無数のアイオーンたちを創造することにより、プレーローマ界を成立させる。アイオーンの一人であるエルは、『十二の天使を生じさせ、混沌と冥府を支配させよ』と言い、造物主ヤルダバオートを出現させる。その顔は炎で輝き、その姿は血で汚れていた。

 ……最後にイエスはユダに、『お前は神の私を包むこの肉体を犠牲とし、すべての弟子たちを越える存在になるだろう』と告げる。ユダは、聖なる種族と共に永遠の王国へと引き上げられるのである。部屋に入って祈りを捧げるイエスを捕らえようと、律法学者たちは注意深く見張っていた。彼らはユダに近づき、『お前はここで何をしているのか、お前はイエスの弟子ではないか』と問いただす。ユダは彼らの望むままに返答し、いくらかの金を受けとって、イエスを彼らに引き渡した。」

 相当削りました。が、もっともっと削りたいと思ってしまいます。聞きたくないもない物語ではありませんか。数ある異端文書の中でも、こんなにひどいものはそう多くはないでしょう。ユダの擁護というより、イエスさまを貶める文書のようです。まともな信仰者をサタンに売り渡すかのような!