神さまが司令官

第二章 全国の教会から


1、物資の搬入、搬出

 この救援対策本部の働きは、物資と共に始まり、物資と共に終わったような気がする。本当は、決してそうではなかったが、それほどに救援活動の中では、活動の中でも、人々の意識の中でも、物資は中心的な部分を占めてきたと言えるであろう。「どんなものが欲しいですか」と問い合わせに始まり、まず、「おにぎり」が届けられる。又、集まったお金で色々な品物を買って送って下さる。現地で物を買うことは難しく、それが本当に必要な時期であり、その配給は緊急の責務であり、被災者たちの切実な要求であった。しかし、物資はまた、送る者、送られる者、そして、それを扱う者にとって、その必要をよくよく見極めておかなければ、人の心をむしばんでゆく危険性があると承知しておかなければならないと自戒を込めて思う。

 ともあれ、私たちの救援活動は物資と共に始まった。前述したように、最初の物資は聖書宣教会の先生方と共に東京からトラックで着いた。又、最初に救援活動を始めた加古川、高砂の教会から何回も何回も物資が届けられたことを忘れてはならない。この方々の活動は、3ヵ月たった今でも、義援金を集め、品物もと、なお続いていると聞いている。福井県の武生から3トン・トラックとワゴン車で、ボランティアの方々と満載の救援物資が届いたと前述した。1月28日(土)のことである。物資の配給にはまだ交通事情が悪く、バイクが欲しいと願っていたが、この時同時に50ccのバイクが届けられた。ナンバープレイトが付いていなかったため、区役所で仮プレートを発行してもらったところ、2週間ほど経って電話があった。福井県鯖江市からである。「もしもし、お宅で使っているバイクは私どもで盗まれたものなんです」「エッ!」一瞬絶句して声が出ない。なんと、盗難バイクであった。実は、それは現地の警察から回ってきたものと後に判明したが、ボランティアの方々はご苦労にも、後でまたそのバイクを取りに来られた。いろいろなドラマがあるものである。

 物資は、全国の教会から、クリスチャンの方々から、またクリスチャン以外の方々からも届けられたが、総数100トンに及んだのではないかと思われる。物資の搬入、搬出のリストを作り、その搬入、搬出の仕事をボランティアの方々にやって頂いたのであるが、そのリストにコメントを付けたものが救援活動カレンダーとして、ボランティアの長期滞在者・静仰治兄、佐々木啓介兄、浅沼紀子姉によって作られたので後に掲載する。それにしても、とても全部を記録することは出来なかった。沢山の物資を届けてくださった全国の諸教会、クリスチャンの方々に心から感謝を申し上げたい。

 また、こちらからお願いし、快く沢山の物資をお送りくださった中小労働運動センター所長・刀谷全雄氏、経団連・東京の田代正美氏には心からの感謝を申し上げると共に、両機関に神さまからの豊かな祝福があるように願うものである。この経団連からくつ下が届いた。5箱! 電話で「経団連からくつ下が5箱届いているよ。必要だったら取りに来て」「5箱くらいなら全部……」「そんなに持っていってどうするの」「???……」 1箱1000足である。さすがは天下の経団連、余りに多くの物資を出し過ぎては経済のバランスが崩れると心配しておられた。そんな経団連の物資は、大阪女学院学内の倉庫に一時保管されたが、その労をとって下さったのがウエスレアン・ホーリネス、キリスト東成教会の谷口和男牧師である。同教会連合からは実に沢山のボランティアが送られ、又、ワールドビジョンとの連係で数々のご労をとって下さった。心からお礼を申し上げたい。特に、情報を担当していて、同師及び同教会連合・ひばりが丘北教会の小寺徹牧師がパソコン通信のためにご尽力下さったことに特別の思いがある。情報を郵送やファックスで送りながら、今一つもどかしさを感じて、「パソコン通信が出来れば……」と呟いていたのを、丁度来ておられた小寺先生が耳にし、谷口師を通してノートパソコンが通信用のモデムを擁して運びこまれた。提供はワールドビジョン、誠に嬉しいおはからいであった。

 もう終わりの頃のことであるが、岡山から4トン・トラックが来た。「荷物です」と言って、運転手の方はどんどん荷物を降ろし始める。大きい箱、小さい箱、全部で30個位あっただろうか。荷物を降ろし終わって、車が走り去ってから気がついた。「どなたか送り状をもらった?」「いいえ」、誰も知らない。箱も雑多で、送り主が判るようなものが見当らない。結局、いくつかの箱に貼ってあった「岡山県連合」からのものと判ったが、丁度物資が不足しはじめていた頃で、思いがけないプレゼントであった。

 嬉しい、本当に嬉しい贈り物があった。武生からの発砲スチロール、宮城の大原先生からのお米、ダンボールに詰められたこまごまと、そのまま一つの家庭でお父さん、お母さん、子どもがすぐに使えるように工夫セットされた宅急便もそうである。ボランティアで来ていた近藤兄、ある時、秋田のお家に電話をかけた。カセット・コンロが足りないから送って欲しい。そして、たくさんのカセット・コンロが届いた。手編みの毛糸の帽子もある。丁度、冬の真っ最中、暖房もない避難所で耳のところまで帽子でガードして寒さをしのいでいる。そんな人たちのためであろうか。数えきれないほどたくさんの帽子が、ひとつひとつ丁寧にビニール袋に入れられて、そのひとつひとつに短いけれど手紙が添えられてあった。どこかの婦人団体からなのであろう。驚ろいたことに、被災地・西宮からの手紙も添えられていた。本当に嬉しい、感謝な贈り物です。ありがとうございました。

 その他、神戸市役所や兵庫県などの自治体が設置した物資集合所から、「救援活動中」という証明書を発行してもらい、沢山の物資を頂いてきた。神戸市外大、しあわせの村、兵庫県消防学校、西区体育館、グリーンピア三木など物資を取り扱っている所にボランテイアの方たちがどれくらい往復したであろうか。それらの物資は何一つ無駄にはされず、教会へ、そして、被災された方々に届けられた。

 必要とされた物資は、時々に、地域によって変わっていったことも報告しておかなければならない。最初に必要だったものは「飲料水」と「おにぎり」「インスタントラーメン」、これはお店がメチャクチャになってしばらくは開かなかったことから、食べる物にも事欠いていたためである。勿論、被災の中心部ではその日その日の食料確保が生命線の確保でもあった。その内に、冷たいおにぎりでは余りにも惨めになってきたのであろう。炊き出しに人が集まり始めた。この頃、宮城の教会から3回に分けて1トンもの大量のお米が届き、炊き出しに随分と役立たせて頂いた。ガスの供給が止まっているため、カセットコンロとボンベがいくらあっても足りなくなっている。そして、水、トイレが使えない。一週間過ぎる頃から、くつ下、下着の要請が増えはじめてきた。勿論、焼け出された人たちにとってはあらゆる衣類が必要であろう。ウエット・ティッシュがこんなにも便利なものとはじめて知った。寒い時期だったので、使い捨てカイロの需要はとても多かったようである。避難所の冷たい床の上に敷く発砲スチロール一500枚が福井県の武生から届いたのは1月28日のことであった。寒い冬の体育館で心細い避難生活を始めた方たちにとって、何と嬉しいお心遣いだったことだろう。

 バケツ、歯ブラシ、石けん、ポリタンク、ジュース、野菜……、作業用の一輪車まで、まるでデパートが引っ越してきたようにバラエティーに富んでおり、時がたつにつれ、だんだんと落ち着きが戻ってきた地域ほど、そういった多様な物資が必要とされてきたようである。仮設住宅に入居する方が出はじめると、洗濯機や什器類、特に何もかも割れてしまったために陶器が求められている。覚えておきたいことであるが、無料で貰えるから欲しいというのではない。買い求めたくても、お金ごと失ってしまった人が多いのである。

 そんな方たちに、私たちは必死になって物資を配って歩いた。扱った物資は全期間で100トンを超えたようである。その窓口として協力して下さった主な教会を列記しておく。

 神戸ルーテル神学校内支部、兵庫松本通教会内支部、神戸聖約キリスト教会、湊川伝道館、救世軍神戸小隊、カナン教会、神戸カルバリー教会、神戸YMCA、神戸YWCA、西須磨ルーテル教会、明石上ノ丸教会、鷹取教会、他多数である。主がそのご労をねぎらって下さるように。中には、ご自分たちも相当の被害に会われながら救援活動に走り回った教会もある。

 最後に、このような災害時には、エアー・ポケットのようになっている人たちがどこかにいることを心に留めておかなくてはならない。そんな出来事を一つご紹介したい。

 2月10日、白川台キリスト教会の小紫義弘牧師から電話があった。近くの須磨区西落合団地に沢山の避難者が来ており、受け入れた住民の方々が食べるものにも事欠くパニック状態に陥っているということであった。早速、ボランティアの方々が物資の中から「あれも、これも……」と取り揃えて、小紫先生の案内で走った。発端は、近くの避難所の物資の配給を見て、「いいわね。私たちの所には何も来ていないのに……」というつぶやきを耳にしたことによる。この二ヵ月半の間に、そのような人たちが何人もあったことを知らされた。足で探しながら声を掛けながら、出来るだけ丁寧な救援活動、これこそ、教会・クリスチャンが行なう救援活動であろうと思わされる。

* この後に、静仰治兄、佐々木啓介兄、浅沼紀子姉によって作られた「救援カレンダー」が続くのですが、本来は物資、何がどれ程どの様に動いたかを見る上では大変貴重な資料ですが、これも余りにも膨大で割愛させていただきました。
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