福音と宗教

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Y、終章

2、宗教の行方(2)

 今、宗教世界に、新たな葛藤が生まれているようです。かつて古代社会では、人間同士の抗争には必ずと言っていいほど、神々の争いが絡んでいました。そんな宗教戦争は、時代毎に様相を変化してきましたが、そうした様相は、原始宗教のころから、人間社会につきまとっていたことなのです。そして今、特に、イスラム世界で教派間の争いが表面化して来ました。一方で宗教家同士が平和運動などで手を結び、一方で同じ宗教教団でありながら反発しあう人たちもいて、宗教界が混沌としているように見えます。が、しかし、必ずしも宗教が衰退しているというわけではありません。今、スピリチュアルが全盛になっていますが、書店や図書館の本棚を覗きますと、スピリチュアルに関するものすごい数の本が並んでいます。占いや霊能、霊視、霊媒などに関する本も多く、オカルト的なものまで、その中の主要な位置を占めているようです。スピリチュアルなどとスマートな言い方ですが、中身はピーと変わらず、ただ、占いや霊能に見られるように、それが宗教だとは認識されていないのです。二十一世紀にもなって、人間が宇宙に飛び出して行こうかというこの時代に、しかし、原始宗教時代のような混沌とした宗教の世界が、科学時代の現代人を縛り始めていると言っていいでしょう。こと宗教に関する限り、原始時代に逆戻りしているのかも知れません。

 そんな宗教の世界において、諸宗教の教団という意味でも、まだまだ言い残したことがあるかと思いますが、個々の教団をなぞることは打ち切りましょう。ただ、大きな課題が残りました。第五章「新しい宗教」の第四項「霊能と霊媒」で、「霊視とか透視など相談者を信頼させる手法ですが、それが本物の、異次元の霊視であったり透視であったりした場合のことは、別問題として取り扱わなければならない」と問題提起をしたままになっていた、「本物」という問題です。もう一つ残っている「福音と宗教」に入る前に、この「本物」という問題を考えてみたいと思います。


※ 宗教に潜むもの−1

 恐らく宗教というものの本質に迫るであろうこの問題を、私なりに考えてみたいということですが、問題提起したところが「霊能、霊媒」の項でしたので、そこから始めていきたいと思います。いや、正直に言いますとこれは、「霊能、霊媒」のところで一旦書き上げたものですが、書き上げてみると、どうも「霊能、霊媒」の項にはそぐわず、宗教の総括問題ではないかと、場所を移動したというわけです。それで良かったのかどうか、今でも確信は持てないのですが、少なくとも、「宗教」という人間の存在理由にまで関わるこの問題は、独立して扱われるべきであろうと思ったからです。

 さて、霊能、霊媒ともにこれは、現代人的思考のところで、つまりそれは、説明のつく範囲内のことであるとして来ましたが、もっと本質的な問題が残っています。「この霊能、霊媒が本物であったなら」という問題です。これは恐らく、占いや霊能だけでなく、他の宗教にも関わることでしょう。もし本物であるなら、コールド・リーディングやホット・リーディングを持ち出す必要はありません。霊能者も霊媒者も占い師も、神々の代理人に過ぎなくなるからです。諸宗教にしても、崇拝対象の神々が教祖に啓示した……と、それを認めればいいだけの話です。そして、これだけ多くの宗教が、消えても消えても新たな姿を装って出て来る中で、ただ出て来るだけでなく、まともだった宗教にまで入り込んでそれをねじ曲げ、異端やカルト教団等に姿を変え、直接的、間接的に人を囲い込み、攻撃してやみません。まるで宗教が人間の恋人か仇敵ででもあるかのように……。それを探ることで、その根本的な理由が分かるかも知れないと思うのです。

 まず最初に、「本物の霊能、霊媒、占いはあるのか」という問題です。これは、宗教の本質に関わるものです。今まで宗教を、自然発生型と人間創唱型とから見て来ましたが、宗教はいづれも、その宗教と対峙する者、その宗教に聞く者としての、私たち受け手側の意識の中で「宗教化」されて来たということです。つまり、教団(個体であっても、群れとして極めて小さなものであっても、それは問われない)として成立させて来たのは、私たち人間の意識内のことであるということです。もっとはっきり言うなら、教団となった宗教は、人間の思考の産物なのです。創唱宗教には、その痕跡が比較的明確に残されているようですが、自然宗教の場合には、もしかしたら、発生段階でそのような説明は出来ないかも知れません。が、しかし、より高度な宗教体制(多神教、唯一神教など)へと発達していく過程では、形成される思考内(神学や教義学)において、そうした人間の痕跡をいくらかでも見つけ出すことは可能でしょう。非常に簡単で単純な方法ではありましたが、恐山のイタコにそんな様子を見たばかりです。


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