福音と宗教

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W、日本人の宗教

3、日本のキリスト教(1)

a. キリシタン時代−1

 日本最初のキリスト教伝来は、飛鳥・奈良時代の仏教諸派の教説に、キリスト教の影響と思われるものがあり、恐らくそれは、中国の景教(ネストリウス派・キリスト教の異端として西方教会から退けられた一派)の教えではなかったかと想像されます。しかし、この教えはキリスト教信仰としては認識されず、日本人の仏教文化として吸収・消化されてしまいました。それは現代に至るまで、「日本人Vsキリスト教」として、変わらず問題を提起し続けているようです。

 ともあれ、「日本人の宗教としてのキリスト教」を見ていきましょう。
 史実に見る日本最初のキリスト教は、ご存じの通り、16世紀の戦国時代末期、イエズス会のフランシスコ・ザビエル来日に始まる、いわゆるキリシタンの時代です。以後西欧諸国は、植民地政策の競い合いもあって、多くの宣教師を日本に送り込んできました。そして、九州から西日本、近畿地方を中心に多くの信徒を獲得。当時の覇者・織田信長は、彼らを西欧文明をもたらす者として、南蛮寺(教会)やセミナリオ(神学校)を作るなどして、優遇しました。また、九州のキリシタン大名たちは、伊藤祐益(スケマス)(スケマス・15歳)ら7人の少年使節をバチカンに派遣しました。彼らはローマ教皇に謁見後、ポルトガル、スペイン、イタリアなどヨーロッパ各地を巡歴し、行く先々で非常な歓迎を受けたそうです。世界の仲間入りをと願う当時のキリシタンの、熱い思いが伝わってくるようです。

 ザビエルが来日してからの約40年は、「布教の時代」と呼ばれます。その頃のキリシタン人口は約20万人、全国の総人口が2000万人の時代ですから、驚かされるではありませんか。

 ところがその活動期も、1587年、豊臣秀吉が突如発動したキリシタン宣教師追放令によって暗転していきます。もっとも、宣教師たちが修道服を脱ぎ捨てたり、公然たる活動を遠慮するなどが好感を持たれたのか、この禁教令はさほどの実害をもたらしませんでした。しかるに、従来、教皇グレゴリウス13世が日本伝道はイエズス会(ポルトガル)に限るとしていたところに、スペインのフランシスコ会宣教師ペドロ・バプチスタが使節として来日、秀吉に謁見して好遇を受けたことから、宣教師増派を求め、京阪で公開伝道を開始しました。そのことに危機感を募らせたイエズス会宣教師たちが、「国禁を犯すもの」としてフランシスコ会に警告しますが、フランシスコ会はそれを退け、両派の反目が、ポルトガル、スペイン両国の利害対立に及んでいくことになります。その抗争に、やがて、秀吉の怒りが爆発し、フランシスコ会員26人を捕らえ、長崎郊外の立山で十字架刑に処しました。26聖人の殉教がこれです。以後、キリシタン禁教は日本の国策として徳川幕府に引き継がれ、キリスト教に対する民衆の偏見が現代にまで定着しました。一宣教師の思慮の足りなさがこれほどの結果を生む。主の証人として、心しておかなければなりません。

 秀吉のキリシタン禁教政策は、非常に厳しいところもありましたが、総じて部分的・限定的なものだったと言えるでしょう。しかし、秀吉後の徳川幕府は、国をあげて徹底的にキリシタン弾圧を実施し、多くの信徒や聖職者が殉教していきました。幕府が採用したキリシタン撲滅作戦は、全国民を仏教寺院の檀家として登録する、「寺請制度」です。そこにはもちろんキリシタンも含まれ、キリシタンたちは寺院の証明書がなければ、葬儀も旅行も町内会の行事参加も……といった、市民生活が出来ないことになります。しかも、幕府は報奨金を定めてキリシタン訴人を奨励し、踏み絵までも考え出したのです。かつて見た踏み絵は、踏まれてなのか、黒ずんで薄汚れていました。そのように下地を整えながら1614(慶長19)年、家康は大追放令を発布します。各地から長崎に集められた外国人宣教師と信徒400余人がマカオとマニラに追放され、さらに京阪の信徒71人が津軽に流罪されました。この大追放令以後、キリシタンたちは急速に地下に潜伏することになります。いわゆる、隠れキリシタンです。彼らは表向きは仏教徒なのですが、密かに倉などに集まり、マリヤ像などを囲んで礼拝を行なっていました。灯籠に火を入れると、ある角度でマリヤの姿が壁に映し出される、そんな石灯籠を倉敷で見たことがあります。倉には逃走用の隠し扉までありました。

 ここまで家康を追い込んだキリシタンへの恐怖意識は、恐らく、キリスト教が欧米白人主義の先兵になってきたという情報を、かなり正確に入手していたためではなかったかと思われます。詳しいことは避けますが、確かに、欧米の白人たちは有色人種に対し、かなりひどいことをやっていました。そして、宣教師たちが、知ってか知らずにか、その片棒を担いでいたことも事実なのです。


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