福音と宗教

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V 民族宗教

3、中国仏教(2)

a. 歴史−2

 北周・武帝の覇業を継承した隋の文帝は、西晋以来の中国の統一を成し遂げました。彼は、仏教を中心に据えた宗教政策を展開し、新たに造成された都・大興は仏教の中心地になって、次の唐代における中国仏教の隆盛期到来への基礎となっていったようです。文帝はその晩年、中国全土の要地に舎利塔を建立し、各地方の信仰の中心としましたが、これが、日本の国分寺の起源と言われています。

 唐の時代になると、次々と仏教宗派が生まれてきました。中でも天台宗と禅宗は教団色を持つ宗派として注目されます。西遊記で知られる玄奘三蔵が経典を求めてインドに大旅行を決行したのも、この時代のことです。彼が持ち帰った経典は、後世の東アジア仏教の基盤となりました。また、紀元8世紀には、不空が密教を大成。これは真言密教として、日本の空海に伝えられることとなります。中国仏教は、この唐代に、最絶頂期にあったと言えるでしょう。ところが、唐代も末期になりますと、武宗の仏教弾圧事件(9世紀)を契機として、仏教の勢力は急速に衰えました。ただ、それは武宗の治世だけのことでしたから、皇帝が変わるとすぐに仏教は復興していくのですが、この時期、唐朝自体が各地の地方勢力によって中央集権的な求心力を失っていたこともあり、往年の繁栄を取り戻すことはありませんでした。やがて黄巣の乱を契機として、唐は一気に衰亡への道を辿り始めます。そして仏教も……。

 唐が滅び、宋が再び中国を統一するまでの五代十国時代には、おおむね仏教は保護され、隆盛しました。しかし、この時代末には、国が僧侶の租税と兵役を免除、寺院の財政援助をしており、そこから安易な動機による出家や堕落した僧侶が増え、そんな寺院や僧侶が国家財政を圧迫したことから、3300もの寺院が廃寺となる大規模な廃仏事件が起きました。中国における四大法難と言われる、最後の激しい法難です。この法難以後、難解な学問体系を持つ多くの宗派から民衆が離れましたが、具体的で分かりやすい禅宗や浄土念仏宗、また、現世的利益を説く観音信仰などは、広く民衆の支持を得て復興、中国仏教の主流となっていきました。そして宋の統一後、宋の太祖は廃仏を中止し、仏教保護へと政策を転換しますが、一方、寺院資産への課税による寺院統制を行い、やがて五山十刹制度として、国家統制の下に管理する事に成功しました。

 中国仏教の繰り返される浮沈は、国や民族が抱えてきた国家と宗教という問題として、浮き彫りにされているようです。キリスト教とて例外ではありません。教会が社会の中に埋没している現代、考えさせられる点ではないでしょうか。

 五代十国から宋の時代にかけて、大衆受けする禅宗や浄土教が栄えましたが、他方、儒教・仏教・道教の三教が融合する傾向も見られます。この時代は、インド起源の仏教が次第に本来のインド的特色を失い、中国的宗教へと変貌を遂げて行く時期でもありました。そんな傾向は、元や明や清の時代にいっそう強まっていきます。国家による仏教保護政策は、一部の地域を除いてほとんど見られなくなり、教派や教学といった出家僧侶の華々しい活動の場がなくなっていきました。宗派は統合、再編成しながら、生き延びる道を模索したようです。そんな中で、中国仏教は出家僧侶の手から、在家居士を中心とする仏教へと変わっていきました。居士とは家庭において修行を行う仏教信者の事ですが、彼らは仏教学の知識・実践において、僧侶に匹敵する程の力量を持っており、清代になりますと、衰退した出家教団に代わって仏教復興運動を展開するなど、仏教発展の一角を担うようになります。

 中国最後の王朝「清」の滅亡とともに、中国は新しい時代へと変貌し、第二次世界大戦後、共産党により、現代の「中華人民共和国」が成立しました。中国という呼名はその略式名称です。

 ご承知のように、共産主義は一切の宗教を認めず、「宗教は麻薬」と称して排除しようとしてきました。共産主義国家として新生した中国も、宗教を嫌い、仏教やキリスト教などを弾圧しましたが、特に1960年代の文化大革命には、極端な弾圧と破壊が行われ、五代十国以後、禅宗と浄土教に絞られながら、居士仏教としてほそぼそと生き延びてきた仏教は、存亡の危機に直面しました。

 ところが21世紀の現在、中国政府は文化大革命の非を認め、抑圧政策を方向転換しました。荒れ果てていた仏教寺院は、日本の寺院や華僑の援助によって少しづつ復興しているそうです。中国仏教は、憲法が信仰の自由を認めたこともあって、徐々にですが、回復に向かっていると言えましょう。もっとも、それは政府に正式に登録されている宗教団体に限ってのことのようです。その登録宗教は仏教、道教、キリスト教など9つ。現在の中国仏教は公認の中国仏教協会の下にまとめられ、その統制のもとに、宗教活動が認められていると言っていいかと思われます。なお、1993年の統計で、仏教の信徒数は約4,856,000人だそうです。ちなみにキリスト教は約718,000人。地下教会のことを考えても、これらの数字が本当の生き生きした宗教人口なのか、まだ疑問が残ります。


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