福音と宗教

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U 世界的宗教

3、キリスト教(4)

b. キリスト教の歴史(3)


 キリスト教の歴史・「迫害と殉教の時代」に続き、コンスタンティヌス大帝による、キリスト教公認に始まった平和な時代・「古カトリック教会時代」(313-590年)と呼ばれる時代を取り上げましょう。カトリックとは、「普遍的な」という意味です。ここまでが通常、古代教会史と区分されています。

 この時代は、民族大移動に伴い、ローマ帝国に大きな変動がありました。帝国北辺のライン川とドナウ川の防衛線(パスク・ロマーナはここを死守するということ)を越えて、西ゴート族や東ゴート族など、ゲルマン諸族が侵入して来ました。その一因に、テオドシウス帝の死後、帝国の東方と西方を二人の息子に分割し、帝国が弱体化したことが上げられます。東ローマ帝国は、西ゴート族の侵入を阻止し、比較的安定した時代(5世紀)を迎えますが、西ゴート族はイタリアに進出してローマを蹂躙、東ゴート族が北イタリアに王国を建設するなど、西ローマ帝国は分断され、ついに476年、皇帝ロムルス・アウグストゥルスが傭兵隊長オドアケルの反乱により退位、実質的滅亡へと追い込まれます。

 かかるローマ帝国の状況は、教会にも影響を及ぼし、東西分裂という事態を引き起こしました。コンスタンティノポリスを中心とする東方教会と、ローマを中心とする西方教会の誕生です。この教会の東西分裂は、キリストの二性一人格という神学論争を巡るカルケドン教会会議(451年)などを経て、正統とされた西方教会が優位を占めることとなり、ゲルマン諸族への宣教を通して、西方世界に「キリスト教の時代」を確立していきます。しかし東方教会は、もともと純粋な信仰に立ち、「正教(正統教会)」と呼ばれていたのに、ロシア正教やギリシャ正教という個々の名称で知られるように、「東方」という地域限定の特殊なキリスト教イメージに固定化されてしまったようです。


 中世は、西方教会だけに当てはまる歴史区分ですが、この時代は一般に、ローマ教会を中心に、中世カトリック教会時代を築いた、グレゴリウス一世がローマ教会監督に就任した590年から、マルティン・ルターによる宗教改革が始まった、1515年までと言われています。グレゴリウス一世は、そう呼ばれることを拒みましたが、実質的な最初の教皇でした。ここに、中世最大の特徴であるヒエラルキーと呼ばれる身分制度・教皇を頂点とするピラミッド型の聖職者集団が、一般民衆を土台に出来上がっていったのです。その教会制度を否定する者は異端であるとされ、教会は「聖と俗」両世界を、ともに支配するようになります。この時代を語ろうとしますと、十字軍やスコラ神学など、取り上げたいことは多くありますが、いづれも、こういった教会権威を守ろうとする方向を向いているようで、割愛します。詳しくお知りになりたい方は、何種類もキリスト教史の本が出版されていますので、そちらをご覧ください。ただ、もう一つ、触れておかなければなりません。
 それは、この時代が、「聖書のバビロン捕囚」と言われていることです。

 中世カトリック教会の公用聖書は、4世紀末、ヒエロニムスがヘブル語の旧約聖書とギリシャ語の新約聖書をラテン語に翻訳した、ウルガタ訳でした。これは優れたものでしたが、教会はそれのみを権威あるものとし、他の翻訳を禁じました。人々は自国語の聖書を持つことが出来ず、聖書を自分で読んで信仰の糧にするという、クリスチャンにとって当たり前の信仰生活が出来なくなってしまったのです。その傾向はやがて、教皇至上権の主張にまで行って、ボニファティウス八世の有名な回勅・「ウナム・サンクタ」(1302年)は、教皇のみがキリスト教社会の至高者あり、教皇のほかには、救いも罪の赦しも与えられないとまで明言しています。

 しかし、1000年の長きに渡った中世カトリック教会の権勢も、ようやく終焉に近づいて来ました。1453年、帝都コンスタンティノポリスがオスマン・トルコ軍により陥落、東ローマ帝国が滅亡します。それに先立つ1422年に、教皇マルティヌスは、トルコ軍から東帝国を救うという名目で、東西両教会合同を提案しました。その条件として持ち出されたのが、ローマ教会の首位性です。しかし、約束された西方からの援軍はありません。ローマは東帝国の滅亡を、冷ややかに見ていました。そればかりか、征服者モハメッド二世に、教皇ピウス二世は「洗礼を受けなさい。私たちはあなたをギリシャの皇帝と呼びましょう。ローマ教皇も、キリスト教諸侯に対するように、あなたを愛しましょう」と手紙を送ったほど、無節操ぶりを現わにしています。免罪符を発行するなど、富への執着も尋常ではありません。そんなキリストの教会ならざる世俗権力にまみれて、どうしてそこに、新しい力の台頭が来ないはずがありましょう。宗教改革の機運が静かに進行していました。


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