福音と宗教

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U 世界的宗教

 キリスト教1)

 キリスト教と言うと、最初に何が思い浮かぶでしょう。尖塔に十字架をいただいた荘厳なゴチック風建物、或いは、純白のウエディングドレス華やぐ結婚式でしょうか。教会に行かれたことのある方には、そこで行われていた荘厳な礼拝かも知れません。パイプオルガンでもあれば、最高ですね。話は覚えていなくても、一緒に歌った讃美歌は、今でも心地よく思い出されるのではないでしょうか。

 クリスチャンにとってのキリスト教は、それぞれが所属される教会の特徴でしょうか。暖かい交わり、牧師の人柄、一緒に教会案内のチラシを配ったことなど……。クリスマス祝会やキャンプなど、きっとどなたも忘れられない思い出になっていることでしょう。初めて教会に行った時、大きな扉の前で行ったり来たりうろうろしたことなども……。キリスト教というと、すぐにそんな教会がイメージされますが、果たして、キリスト教と教会は一体なのでしょうか。

 これから、宗教という枠組みの中でキリスト教を紹介するのですが、私が牧師だからでしょうか、言い過ぎたり、偏ったりと、これがなかなかむつかしいのです。できるだけ淡々と「キリスト教」の紹介をしたいと思っています。


a. イエス・キリストとその教団

 ユダヤ北部・ガリラヤ湖に近い山中のナザレという町から、イエスという人が、巡回説教者(昔から預言者たちが行ってきた意思表示のスタイル)としてデビューしました。彼は病人を癒すという特殊能力を有し、その独特のメッセージもあって、たちまち大勢の民衆の心を惹きつけ、この人はメシア(ギリシャ語ではキリスト)ではなかろうかとの期待をもって迎えられました。メシアとは、ユダヤで昔から神が遣わしてくださると言われてきた救世主のことです。新約聖書のマタイやルカの福音書に、「聖霊によってみごもった処女マリアから生まれた」とある出来事も、早くから一般民衆の知るところとなり、救世主イエスの神秘性を一層盛り立てていたのかも知れません。そして、マリアが婚約していたヨセフは当然イエスの父親になるのですが、このヨセフはイスラエルの偉大な王ダビデの末裔でした。ですから、イエスもまたダビデの家系に組み入れられるのです。救世主・メシアはダビデの子と預言されていたことも、ユダヤ人にとって、イエスを担ぎ上げる絶好の材料となったのです。ところが、イエスの高い評判は、当時のユダヤ教指導者たち、パリサイ人、律法学者といった保守派の人たちのねたみとなり、さまざまな葛藤のすえ、イエスは神を冒涜する者であり、社会を混乱に陥れる者であるとして、時の支配者・ローマ総督ピラトに告発され、(不当な)裁判の結果、ローマの極刑・十字架刑に付されてしまいます。ところが、十字架で殺された筈のイエスが、三日後によみがえったと言うのです。たくさんの弟子たちが、よみがえりのイエスに会ったと証言しました。

 イエスの意志を受け継いでイエス・キリスト教団(教会)を打ち立てたのは、そんなイエスの十字架を「私たちの罪の赦し」と信じて告白し、よみがえりのイエスに力を頂いた、12人の使徒を中心とする弟子たちでした。中でも、彼らの中心的指導者となったのはペテロです。ローマ・カトリック教会(西方教会)の頂点に君臨するローマ教皇は、このペテロの後継者と位置づけられています。この流れについては後に触れますが、ペテロと並んでキリスト教形成に大きな役割を果たした、もう一人の人を挙げておかなければなりません。初期の弟子たちより少し遅れて弟子となった、パウロという人物です。彼を中心に小アジア、マケドニア、ギリシャ、ローマといった外国にまで教会が建てられていきます。パウロはまた、ロマ書、コリント書など新約聖書中にパウロ書簡と呼ばれる13通の文書を残し、イエス・キリスト教団神学の基礎を築きました。この、ペテロとパウロを得て、キリスト教は世界宗教へと発展していくのです。もっとも、しばらくは迫害と殉教の時代が続くのですが……。


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