福音と宗教

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U 世界的宗教

1 仏教(3)

c. 部派仏教

 ブッダから約1世紀を原始仏教の時代と位置づけてきました。続く時代を部派仏教の時代と呼ぶことが出来るでしょう。部派仏教とは、「我こそ古いサンガの伝統を守る者」と自負する人たちがそれぞれの部派を形成していった、いわゆる教派乱立の状態を言います。

 ブッダの入滅後200年ほど経ったアショーカ王の時までに、3回の結集(けつじゅう、経典の編集)が行われますが、ブッダ入滅後100 年ほど経った2回目の結集時に、ヴァイシャーリー教団の一部の人たちが、当時サンガ(原始仏教教団)が通達していた戒律の禁止事項の緩和を申し出ました。しかし、教団幹部から拒否され、改革案を要求した人たちは分派し、これを大衆部と称しました。この大衆部からやがて大乗仏教が生まれたと言われます。部派仏教時代の幕開けと言えるでしょう。

 その折、戒律に異を唱えた人たちに反対し、伝統を守った人たちがいます。第二回結集はその人たちの大同団結の決議であろうと推測されていますが、いわゆる正統派を自認する人たちです。第3回結集時に彼らが一致団結して最大派の部派が誕生し、これが上座部と呼ばれるようになりました。ミャンマーやタイなど東南アジヤ諸国に伝わって現代も残り、南方上座部仏教と呼ばれています。その他、上座部に反発して生まれた、説一切有部、根本説一切有部、法蔵部、経量部など部派仏教教団が続々と誕生していきます。


 仏教には、大乗仏教と小乗仏教の二つの系統があることをご存じでしょう。小乗仏教とは、大乗仏教がサンガの伝統に囚われた部派仏教を「小さな乗り物」と揶揄した呼び名ですが、もちろん、部派仏教諸派は自分たちを小さな乗り物であるなどとは考えていません。ですから近年の仏教学者たちは、小乗仏教という呼称を避け、部派仏教、或いは上座部仏教と呼んでいるようです。

 中でも、サンガの伝統を守って正統仏教であると自負する上座部仏教の、その伝統とは何か、その辺りを探ってみましょう。彼らはブッダの教えを忠実に守ろうとしているのです。ブッダの教えの中心に、正しい見解、正しい決意、正しい言葉、正しい行為、正しい生活、正しい努力、正し思念、正しい瞑想と、「八正道」と呼ばれるものがあります。サンガはそれを具体化し、殺生をしない、盗みをしない、淫らなことをしない、虚言をつかない、酒の類を飲まない、午後に食事をしない、歌舞や音楽や見世物を見ない、薫香や装飾品を用いない、贅沢な椅子、寝台を用いない、金銀を受け取らないといった、様々な戒律を定めました。上座部仏教の出家たちは、これらを厳しく守ることで自分たちを正統としたわけです。

 ところが、これらの戒律を守ることで彼らが目指したところは、自分個人の解脱であって、他の人たちの救済(他利)という意識は全くありませんでした。彼らのそんなところが「小さな乗り物」と揶揄されることになったのでしょう。ブッダの入滅後、すでに300年という長い年月が経過しています。相当数の人たちから教界がよどんでいると思われたとしても、やむを得ません。紀元前200年頃のことでしょうか。インド仏教界に大きな変化期が訪れました。大乗仏教の誕生です。



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